“面前DV”って何?気づいていないだけで実は家庭内ですでに起きているかも

「子どもは、親が好きである」ということは、年齢が低ければ低いほど強く感じています。どんなにひどい仕打ちを受けようとも親から離れない気持ちは愛情を感じているからこそです。

大好きなお父さんとお母さん…。

そのどちらかが加害者で被害者という状態に、子どもの心は傷つきます。愛情の対象が、片方の親を傷つけている姿を見聞きしただけで、親は子どもに対しての心理的虐待をしているということになります。

今回は、子どもが被害者となってしまう「面前DV」についてお話したいと思います。どんなふうに感じ、心身にどのような影響が出るのかを知ってほしいです。

面前DVが子どもに与える影響

DVは、夫婦などのパートナーの間で行われる暴力行為で、加害者と被害者となってしまい、大変つらい思いをします。

もっとつらい思いをしているのは、子どもです。子どもに暴力行為を見聞きさせることを『面前DV』といい、子どもへの虐待となります。ケンカを子どもに見せないようにしている夫婦がいる話はよく耳にします。親のちょっとした言い合いでも子どもは恐怖を感じ、体に不調をきたすことがあります。

これがDVだったら、ひどい状態になるとトラウマを抱えてしまうくらい心に影響を及ぼしてしまうことがあるのです。

【面前DVによる子どもへの影響】

・不安を抱えてしまう(いつもビクビクする)
・不眠になることもある
・体調不良(頭痛や腹痛など)
・食欲不振
・生活リズムの崩れ
・愛着形成の不具合
・「自分が悪い子だからお母さんが叩かれる」などと思ってしまう
などがあります。

特に、注意したいのは、子ども自身が罪悪感を持ってしまうことです。

「自分が悪いから」や「自分のせいで」などと思ってしまい、親の暴力行為に対して罪悪感を持ってしまうことがあります。「自分が弱いから暴力を止めることができない」という考え方をしてしまうような子の場合は、無力感を覚えてしまいます。

このような状態が続くと、自己評価が低くなって心の発達に影響を及ぼします。また、対人関係をうまく築くことができなくなる恐れもあります。

愛着形成への影響

母親がDVを受けていると、自分の身を守ることが優先となってしまうこともあるでしょう。そうなると、子育ての優先順位が下がってしまいます。

抱きしめるとか、一緒に遊ぶといった子どもに必要な愛情を与えられなくなってしまうでしょう。子どもの発達には愛情が必要不可欠であるのに、それができないということは、発達に遅れが出てきたり愛情を受けようとするために歪んだ渇望をしたりする可能性が高くなります。

面前DVなどが原因で愛着形成がされない場合、愛着障害が起きます。

特に幼児期(5歳ごろまで)に起こる愛着障害は、『反応性愛着障害』と呼びます。このような愛着障害は、子どもによって2タイプに分かれることがあります。

【抑制型】

親に甘えたい気持ちや「抱っこしてほしい」などといった子どもが持つ自然な気持ちを自分の心の中に抑え込んでしまいます。恐怖や不安などのマイナスな気持ちが強いため、親に対して警戒心を抱きます。それに他人に対しても心を許すことがありません。

甘えたい気持ちとは逆の行動を取ります。
・目を合わせない
・わざと怒らせるような行動を取る
などです。

【脱抑制型】

抑制型とはまったく正反対の行動を取ります。愛情の渇望からでしょうか、初対面の人であったとしてもなれなれしく接してしまう傾向になります。

・腕を組んで離れない
・いつも笑顔で他人にくっついていることが多い
などです。

これは、相手との距離感をうまく掴むことができないためにこのような行動を取ってしまうのだと考えられます。相手のパーソナルスペース(自分を中心とした空間距離)に安易に侵入して、一見すると社会性が高いように感じさせることもあるくらいです。

しかし、子どもは必死なのです。親に対して取ることのできない愛情表現を誰にでも向けてしまっている状態と考えます。

このように面前DVは、体の異常や心の発達に問題を与えます。しかし、それだけではありません。脳にも大きなダメージを与えるのです。

面前DVは脳に大きなダメージを与える

脳科学者で医学博士である友田明美先生とハーバード大学の共同研究では、次のような研究結果が出ています。わかりやすく箇条書きにしてみました。

【研究結果】

*子ども時代にDVを目撃して育った人は脳の後頭葉にある視覚野の一部の容積が、正常な脳と比べて平均6%小さくなっている
*萎縮率は、暴言や罵倒などの言葉での暴力行為を見聞きした方が大きい
・身体的DVを目撃した:3.2%
・言葉によるDVを見聞きした:19.8%
*IQ(知能指数)と記憶力の平均点が低い
*脳の綿条体の活動が弱くなり喜びや快楽を感じにくくなる(強い刺激を求めるあまり依存症に陥るケースもある)

参考:子どもの脳を傷つける親たち(著:友田明美・出版:NHK出版新書)

面前DVが子どもの心だけでなく、脳をも傷つけていることが現実に起きているということが科学的に証明されたのです。それは子どもの頃だけでなく、大人になってもその影響が残り、子どもを苦しめていくのです。DVは、決して見逃すことができない、放置することのできないことであるとお分かりになるでしょう。

面前DVの目撃例

著者が小学生の頃に実際に見た光景があります。それは今思い出すだけでも胸が締め付けられるような思いがする体験です。

当時、小学4年生でした。隣に住んでいたおじさんは、いつも笑顔で接してくれる優しい人でした。ところが、ある日曜日、外で弟妹と遊んでいると、隣のおじさんが奥さんの髪を引っ張りながら家に連れ帰ろうとしている姿を見ました。

鬼のような形相で、片手で奥さんの髪を掴み、もう片方の手で奥さんを叩き、時々蹴ってもいました。私たちの目の前を通った時、「お前は俺に恥をかかせて楽しいのか!」と怒鳴っていました。

幼児だった妹は大声で泣きだし、小学校低学年だった弟は怖がって著者にしがみついて離れませんでした。怖かったのは著者も同じです。慌てて自宅に駆け込み、両親に話しました。話しながら涙が止まらず父にしがみついたのを覚えています。

著者たちは、その光景を1度目撃しただけです。それでも怖くて恐ろしくて、目にした光景が頭から離れませんでした。

幼児の妹はおねしょがぶり返し、弟は一人で眠れなくなりました。泣きながら目を覚ますこともありました。著者は、頭痛と不眠が続いていました。眠れないから頭が痛いという悪循環になっていたと思います。しかし、両親には言い出せませんでした。弟妹が怖がっていて泣きながら夜中に目覚め、両親がなだめている姿を見ていたので、自分まで迷惑をかけることはできないと思ったのです。

それから間もなくして父の転勤があり、その土地を離れました。その後、弟妹たちの症状は徐々に治まりました。しかし、著者は今でもその記憶が頭の片隅にあります。

家族ではない人のDVを1度見ただけでも怖い思いをします。それが自分の親の間で起こっている子ども達は、相当な恐怖と大きな不安を感じるはずです。

面前DVは、子どもにとって本当に恐ろしいものだということを実感した出来事でした。

面前DVは児童虐待防止法に触れる

面前DVの場合は、子どもへの虐待になります。『児童虐待防止法』が適用になります。

2000年11月に施行、2004年に改正された『児童虐待の防止等に関する法律』(通称:児童虐待防止法)にはっきりと明記されています。

【第2条:児童虐待の定義】
この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

第4項
児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

引用:厚生労働省『児童虐待の防止等に関する法律』

DVの現場を見聞きした子どもは、心身にも脳にも影響が出てしまうことになります。親はそのことにいち早く気がつき、対処しなければいけないと考えることが大切です。

「自分だけが我慢すればいい」という問題ではないということを心にとめておいてほしいと思います。

まとめ

面前DVは、他人の状態を1度目にしただけでも子どもにさまざまな影響を及ぼします。それが自分の両親の間で行われている場合は、恐怖や不安といった相当なストレスを与えてしまっていると認識しなければならないと思ってほしいです。

近年の研究で脳にも影響を及ぼしていることがわかっていますので、子どもの将来にも影響してしまう可能性が大きいのです。自分だけの問題ではないことをわかっていただきたいと思います。

▶︎被害者に共通点はある?DVの被害状況と支配されてしまう心理テクニックとは

この記事を書いた人
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桜井 涼
メンタルケア心理士/ライター

新潟県出身の元学習塾講師のメンタルケア心理士。「地球が滅亡しても生きていける」と言われていた自衛官の父からサバイバルや防犯に関するトレーニングを受けて育つ。塾講師時代より子どもの心の動きに興味を持ち、メンタルケア心理士の資格を取得。2009年より文筆家として活動。ストーカー被害に遭ったことをきっかけに、心理学を通して女性や子どもの防犯を呼び掛けている。

mori.jp編集部

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