こんにちは。メンタルケア心理士の桜井涼です。
今回は、依存症の中でも依存度が高いのに「依存症だと認識されにくい」性依存症についてお話したいと思います。
数年前に米国の有名プロゴルファーが、性依存症であるとのことで、世の中をにぎわせました。このプロゴルファーは男性ですが、性依存症は女性に多い精神疾患だと言われています。体だけでなく心も傷つけてしまう性依存症とはどのようなものなのかをみていきましょう。
性依存症の特徴と症状
性依存症は、プロセス嗜癖の1つで、性的な行為に依存するために、日常生活に支障をきたしてしまう状態です。
性的な行動を起こすことで、自分の中にある何らかのネガティブな感情を一時的にでも消し去ろうとします。徐々に習慣化していきますので、自分で気持ちを抑えることができなくなってしまいます。
【精神疾患としての名称】
2013年以前は、精神疾患としての扱いはありませんでした。しかし、2013年に改定されたDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では、『過剰セックス障害』として病名の記載があり、治療の必要性が書かれています。
また、ICD-10(国際疾病分類基準)では、『性嗜好障害』と記載されています(今回は、皆さんがわかりやすいように、『性依存症』と表現を統一させていただきます)。
では、何をしたら性依存症となるのかをみていきましょう。
その前に、依存の対象となる性行為についての定義を紹介します。DSM-5によると、性行為は性交渉だけを指すわけではありません。
・自慰行為
・ポルノグラフィティ(イメージも含む)
・成人との性交渉
・テレホンセックス
・ストリップクラブ
などの性に関することの全般をいいます。
性依存症において、相手は重要ではないということです。性的な考えや行動が重要ということになります。そのことを踏まえたうえで、どのような症状が出るのかみていきましょう。
【症状】
・不特定多数の異性と見境なく性交渉を持つ
・一日中マスターべーションを繰り返す
・アダルト関連の本やサイトなどを見るのがやめられない
・性的ないたずら電話をする
・インターネットを介したアダルトチャット
・露出や覗き行為
・痴漢行為
などがあります。
性依存症の大きな特徴は、自分の中にある何らかのネガティブな感情や罪悪感、心の痛みなどから逃避するために、上記のような性的興奮や刺激を得ていることにあります。
そのために、仕事へ行かなくなったり金銭を使うようになったりすることで、日常生活の破綻が起こるのです。
【原因】
人が、性行為にハマってしまう原因は、さまざまあります。
その中でも、幼少期の愛情不足や虐待によるものが大きいのではないかと思っています。
愛情不足が引き起こす「寂しさ」や「自分は必要とされていない」という気持ちが強いと、どうしてもネガティブな感情を抱きやすいです。また、虐待が行われていた場合、体を触られたなどの生々しい体験が体の中で感覚として残り、不適応行動を取ってしまうことがあります。
発達段階に性的虐待があると、『性化行動』としてこのような性に依存してしまう場合があると考えられます。性化行動とは、愛情と性が混同してしまい、認識が歪んでいる状態です。性的虐待の後遺症と言っていいでしょう。
上記以外の原因として、大きなストレスやプレッシャーを受けている場合、そのはけ口として性行為で自分を癒そうとすることがあります。最初はそれがきっかけですが、次第にやめることができなくなっていきます。特に中間管理職となる30~40代の男性に多いと言われています。
性依存症の問題点
性的なことに興味があることが良くないように感じるかもしれませんが、すべてではありません。問題となるのは、依存してしまい自分ではやめることができない状態になってしまうことです。
それ以外に、身体的な病を引き起こすことや、性交渉によって望まぬ妊娠が起きてしまう可能性が高いことが挙げられます。
【問題点】
・性交渉で性病を移されてしまう(移してしまう)
・望まない妊娠(避妊具を使用しないことが推測されるため)
・法に触れてしまう行為を犯してしまう可能性がある
・金銭がかかってしまうこともある
・相手を傷つけてしまう可能性がある(不倫など)
・心理的負担(一時的な心の安定の後にくる後悔など)
などがあります。
不倫といった相手を傷つけてしまうような場合、自分だけでなく相手や自分の家族を巻き込むことになります。また、性行為に金銭がかかることがあるため、経済的な問題が出てくることもあります。
性依存症で特に注意したいのは、心理的な負担です。性行為をしている時は一時的でも心が安定します。興奮と高揚感、刺激からストレスを感じなくなる状態と言えるでしょう。しかし、その行為が終わると、「またやってしまった」という気持ちになり、落ち込んだり後悔したりするため、心の状態が不安定となってしまうのです。
それをどうにかするためにまた性行為をしてしまうという悪循環に陥ってしまう点が大きな問題でもあります。
犯罪になるケースもある
男性が性依存症の場合、犯罪になることが多いです。
警察関連のドキュメンタリーなどで「痴漢行為」や「盗撮」、「のぞき」や「露出」などで逮捕されるシーンがあります。これらは犯罪で、被害者となる人たちがいます。そうなれば、職を失うことになる可能性も出てきますし、家族にも迷惑をかけるでしょう。それでもやめることができないことが多いのです。それでいて、被害者に対する罪悪感が少ないです。その代わり、興奮や快楽、刺激といった部分が非常に高いですので、繰り返し行ってしまいます。
女性の場合は、売春をしてまで性を求めてしまうこともあるため、このような場合は売春防止法違反となってしまいますから気をつけなければなりません。
しかし、「自分でもわかっているけど…」と後悔の念を持つのですが、すぐに興奮や快楽、刺激といった部分を求め、性行為を求めてしまうのです。
治療はどのように行うのか
性依存症の場合、「どのような治療を行うのか」という点が引っかかるのではないかと思い、治療に関して触れておきたいと思います。
まずは、心療内科や性依存症を専門としている病院、カウンセラーやセラピストがいるところに受診します。そこで、カウンセリングを受けながら再発防止についてどのようにすればよいかなどを話し合っていきます。症状によっては、並行して薬物治療をおこなう場合もあります。(医療機関の場合)
心の中にある歪みや不適切行動などの原因を突き止めていくことがとても大切です。また、被害者がいるような場合は、あえて被害者の立場に立って、自分が行った行為を見つめるといったことも行います。
カウンセリング自体、まだ日本ではあまり浸透していないので、抵抗を感じるかもしれません。しかし、専門家と話すことで心が軽くなれますし、秘密を守ってもらえるので安心して治療ができるはずです。
最初は、違和感や行きたくない気持ちがあるかもしれませんが、話を聞いてもらうだけでも違います。相談することから始めましょう。
チェックリスト
自分で「もしかしたら依存しているかも」と感じることがあるならば、まずはチェックリストを使ってみることをおすすめします。とてもわかりやすいチェックリストがありましたので紹介したいと思います。
【1段階目】:以下3つのうち2つが当てはまれば『性行為が過剰である』の状態
・過去6か月の間に大量の時間を性的な空想や活動に費やしたか?(1日の目安:15分以内…問題なし・15分~2時間…軽症・2時間以上…重症)
・不安や心配、悲しみや退屈さ、イライラやストレスなど、マイナスな感情を解消する手段として性的な空想や活動を行っている
・性的な空想や活動を減らそうとしたがあまりうまくいかなかった
【2段階目】上記に加え、2つのうち1つが当てはまる場合、『性依存症』の可能性が高い
・性的空想や活動によって自己嫌悪や罪悪感を抱いたり性的活動を秘密にしようとしたことがある
・性的な空想や活動によって自分の仕事や人間関係などで重大な問題が起きた
引用:マンガで分かる心療内科5(著:精神科医 ゆうきゆう)
まとめ
性依存性は、心にあるネガティブな感情があるために、それから逃れるために防衛反応の1つとして性という行為で緩和させている状態です。
それがいつの間にか、経済的・身体的にダメージを被るとわかっていてもやめることができなくなってしまいます。性行為をして、一時的な心の安定を得られても、すぐに罪悪感などの後悔の念を覚えてしまいますので、断ち切ることが大切です。
治療と聞くと、病気のように感じてしまうかもしれませんが、依存症は精神疾患です。しっかり治して自分の人生を立て直していきましょう。
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新潟県出身の元学習塾講師のメンタルケア心理士。「地球が滅亡しても生きていける」と言われていた自衛官の父からサバイバルや防犯に関するトレーニングを受けて育つ。塾講師時代より子どもの心の動きに興味を持ち、メンタルケア心理士の資格を取得。2009年より文筆家として活動。ストーカー被害に遭ったことをきっかけに、心理学を通して女性や子どもの防犯を呼び掛けている。
Moly.jp編集部